まだ読了前なのですが、今読んでいる本が面白く、刺激的なので、ほんのちょっぴりエッセンスのみ、お伝えさせていただきます。

本のタイトルは、『緊張をとる』(芸術新聞社)。
ご著者は、伊藤丈恭(いとうたけやす)氏。
著者プロフィールは以下のとおりです。
〈伊藤丈恭:演劇トレーナー。1967年大阪出身。19歳より、故・吉沢京夫よりスタニスラフスキー・システム、ゼン・ヒラノ氏よりメソッド演技を学ぶ。現在、アイゼ・アクティング・ワークショップを東京で開講中。参加者は延べ8万人を超える。
http://aize.boo.jp/top 「演技アイゼ」で検索〉

本の内容は、
「プレゼンが大の苦手で悩む、生真面目(きまじめ)で、緊張屋の会社員」を、
「元舞台女優兼演出家である、大阪弁のスナックママ」が、
「様々な演技指導メソッド」を駆使して、
「緊張や生真面目さを転化し、内面の能力を発揮できるよう」リードしていく…
という設定のもと、初めからおしまいまで、「二人芝居のセリフ仕立て」で綴られています。

個人的には、書籍内でトレーニングを受ける、「プレゼン下手の生真面目社員」に己の姿が重なり、身につまされながらも、興味深く読み進めている次第です。

目次をご紹介すると
《第1話:楽しみやすくする/第2話:不安をとる/第3話:集中する/第4話:躊躇(ちゅうちょ)をとる/第5話:発声する/第6話:乗りやすくする/第7話:ポジティブを考え直す/第8話:こだわりを捨てる/第9話:役づくりを学ぶ/第10話:深いリラックスを目指す/第11話:テンションを上げる》
という筋立てで、恐らく多くの方が、上記項目のどれかに、
(あぁ、私に必要なものだナ…)
と、引きつけられるのではないでしょうか?

そして今稿でご紹介するのは、書籍中にあるエクササイズではなく、訓練を続ける内に誰もが体験する、「成長の壁」や「行き詰まり感」に、どう向き合えばいいのか、という賢察です。

~生真面目社員は、スナックのママ(元舞台女優兼演出家)から、緊張をとるエクササイズを教わり、実践し、手ごたえを覚えるのですが、繰り返し練習するうちに、当初感じていた「変化・成長の実感」が薄れてきたことを、ガッカリしながらママに伝えます。
それに対してママは…(以下本からの転載です)

ママ 「きた!」
男  「きたって。なんかうれしそうじゃないですか?」
ママ 「マンネリやろ。マンネリは誰でも絶対になるし、一生続くで。こういう山を何度も越えて、心の操作のことを分かっていくねん」
男  「一生ですか?せっかく面白くなって成長してきたと思ってたのに後退してしまった」
ママ 「すっごい話したるわ。今、あんた、成長したのに後退したって言うたやろ。成長って『三歩進んで二歩下がる』これ絶対やねん」
男  「三歩進んで二歩下がる?」
ママ 「そう。で、残った一歩が本当の成長やねん。そやのに、三歩を自分の実力やと思って、二歩下がる時に慌てて自滅していくライバルがいっぱいおってん。私は二歩下がるもんって分かってたから全然慌てんと、こんなもんやって思ってた。三歩はまぐれでできるレベルやねん」
男  「…」
ママ 「演技でも、ちょっと悪くなったのをメッチャ悪くなったって勘違いするのが多いねん。気にせえへんのが実は得策やねん。小さい波で後退してるのは気にせんでも二歩で終わるから大丈夫や。成長の過程で何回、小さい波があると思う?そのたんびに慌ててたら自滅するで」(『緊張をとる』第2話より)~

いかがでしょう?
生真面目社員の抱いたこうした「停滞感」、皆さんも様々な場面で、幾度となく体験されているのではないでしょうか?
私にとっては、本当に日常茶飯事、毎度、毎度のことで、現在も、ギター、お習字、身体の健康、精神の浄化、家の片づけ等、多くの分野で、
(なかなか前へ進まない…)
という葛藤がありますし、過去にも、同種の感覚を抱いたことによって、どれだけの習い事やチャレンジから、頓挫してきたことでありましょう。

注目すべきは、生真面目社員が、
「実際には進歩しているのに、後退している」
と感じてしまう、心のカラクリです。
「進んだ距離よりも、下がった距離」
に、過敏に反応する、心の傾向です。

その時に、
「三歩進んで二歩下がった後の、残った一歩分が本当の成長」
という事柄を、確固たる信念として、己の中に植え付けることができていたなら、人は、挫けることなく、また、自らを否定することなく、安心して前進できるのだと考えます。

そしてこれは、習い事に限ったことではなく、精神修養や、人間関係の改善、日常生活の向上…といった諸相にも当てはまることだと思われ、
「三歩進んで二歩下がる、これ絶対やねん!」
と言い切る、ママ(著者)の言葉を肝に銘じ、己を励まし、周囲の人とも、
「これで大丈夫なんだよね!」
と確認し合いながら、手を携え、先へ進もうと思うのです。

a0002_011075